よってたかって恋ですか?


 “欲っしてばかりで ゴメンなさい”

           〜おまけのおまけ



お互いの目線を絡ませたまま、
吐息が届くほど間近まで身を寄せ合って。
おでこ同士をくっつけてから、
親愛を込めて まずはとこめかみに唇を寄せれば。
眩しそうに眸をつむり、
くすぐったそうに首をすくめる初々しいキミが好き。
おいでと懐ろを開けば、恐る恐るに凭れてくれて、でも、
余裕のないこと、ちょっと癪だなってお顔になるキミだけど。
キミを独り占めしていることへの天罰みたいな何かしら、
ちいとも降って来ないのへ、実はいつもドキドキしてるんだよ?
もしかして、まずはとキミを さいなんではいない?
私に気づかせぬよにと、隠してはいない…?





最聖のお二人には
とんだすったもんだで幕を下ろすこととなった、
そんな十月だったことも 今や遠く。
駆け足だった秋に負けまいとしてなのか、
冬もまた途轍もない勢いの 全力で駆けて来た感があり。

 「うあ、物凄い天気図だよね。」

少しほど遅い時間帯の、一日のまとめ的なニュースにて、
昨日から今日にかけて全国各地で起きた
大雪や突風、高波などによる被害が報じられていて。
解説担当の予報士のお兄さんの背後に映し出された日本地図には、
北海道のすぐ傍を基点に、
誰かの指紋を拡大したかのように
幅の狭い等圧線が何重もの輪になって描かれた、
何とも珍妙な気圧配置が記されていて。

 「幅の狭さが尋常じゃあないものね。」
 「西高東低っていうんでしょ?」

ちょっとした台風級の 途轍もない低気圧が
大陸からの寒気と合体したものだから。
師走半ばの日本列島は、
年明けてからの厳寒期ばりという極寒に襲われており。
北海道や東北北陸のみならず、

 「名古屋でも京都でも雪が積もったそうだよ。」
 「先週は四国でも、
  大きな道路でいっぱい立ち往生しちゃってたしね。」

他所ほど 大荒れにはならなんだけれど、
それでも東京も相当に寒かったので。
こういう日は大人しくしていましょと 外出は控えた彼らに代わるよに。
今世紀最強の耳目、テレビやネットが
刻一刻というノリでいろいろ伝えてくれており。
今日の一日中報じられていたあれやこれや、
六畳間に居ながらにして得られたお話を、
刷り合わせるよに口にするお二人で。
ちょうどテレビ画面にも、
雪道になす術なく
縦列停車したままになっている車列が映し出されており、

 「四国とか九州って
  何となく温かい土地って印象があるから意外だったなぁ。」

素直な感慨を口にしつつ、
コタツ布団に二の腕まで突っ込んだまま、
バザーで買った絣柄の綿入れドテラを羽織っていても
やや骨張って見える肩口をぶるると震わせ、
おお寒むと言いたそうな素振りをして見せたイエスなのへ、

 「そうだよね。」

実は自分も“おや”と意外に感じていたブッダ様。
とはいえ、ああそういう地形とかなのかなと、
納得に至ったそのまま自分はスルーしたことなのにね。
思ったそのままを率直に口に出来るイエスなのをこそ、
微笑ましいなぁと温かく感じ、
ついのこととて口許を弧にほころばせてしまわれる。
大変そうだねと表情をやや曇らせているイエスを見やり、
それから想起されたことがあり、

 “そういえば…。”

あの“茨の冠 紛失騒ぎ”に至った晩を ふと思い出す如来様で。
何とか無事に決着をみ、
夕食をとって銭湯にも行って、
今しているように のんびりテレビを観ておれば。
何を思い出したか、
不意に口許をほころばせたイエスだったので、

 『? どうしたの?』
 『うん…ちょっとね。』

大したことじゃないんだけどと前置いてから、

 『ケーキを焼くのに
  キミを取り巻いて教えを請うてた皆の構図が、
  ミッションスクールのお嬢さんたちだったのに、
  仏教の教えを説かれてたように見えなくもなかったなぁって。』

 『あ…。』

勿論、単なるジョークだということくらい、
堅物なブッダへも ちゃんと通じた言いようだったれど。
とはいえ、何とも微妙な喩えでもあり、
他でもない当のキリスト教の教祖様がそんな言いようをするなんてと。
怒った方がいいのかな、窘めるべきかしらなんて
すぐさまという返事が出来ず、戸惑ってしまったところ。
そんな逡巡をどう受け取ったやら、

 『あ、でもそうだったとしても、今時ならちいとも不謹慎じゃないよ?
  ほら、お寺が経営する保育園でクリスマス会とか催すくらいだし。』

 『…イエス、フォローになってない。』

これで 明日のお笑い界を背負う級の
一流芸人を目指しているだなんて
相も変わらず片腹痛いお二人だったが…それはともかく。

 『……。』

そんな冗談口のようなやりとりをしていたものが、
ふと、表情をやや真摯なそれへと堅くしたイエスであり。
ありゃ今ので傷ついちゃったかな、と案じる種の落ち込みじゃあないと、
別な何かしら、またまた思いついたらしい彼だと、
そこは愛しい君のことだもの、嗅ぎ分けられた釈迦牟尼様。
どうしたの?と小首を傾げ、
テレビを一緒に観ていたがための定位置、
コタツのすぐお隣の位置にいたそのまま、彼のお顔を覗き込めば。

 『あの…あのね?』

切れ長の双眸にやや頬の薄い、
いかにも西欧系の彫の深い印象がするお顔を
肩や背へまで垂らしておいでの深色の髪の陰へと俯かせ。
今度は彼の側が 戸惑いから視線を揺らしていたのだけれど。

 『ブッダはサ、
  誰かが私の私物を勝手に借りたなら、
  そんなつもりじゃなくとも“盗んだ”と見做されて、
  地獄への扉が開くような
  とんでもないことが起きかねないって言ったよね。』

 『? うん。』

何とか落着したというのに、
そんな話を何でまた、今更蒸し返すイエスなのだろうかと。
飲み込めぬまま キョトンとしつつも、
先を促すように黙って聞く構えを呈しておれば、

 『あのね? じゃあ 私こそ、
  皆のものであるブッダを 独占したいってずっとずっと思ってた。
  しかも今、時々って限られたひとときだけにせよ、
  キミから私のものになって貰えているでしょう?』

恐る恐るな様子なのは、
そんなの真剣に語ることかと苦笑されそうなのを恐れてだろか。
いやいや、
そういうことを恐れていては新しい思想を説いて回れやしなかろし、
そも そこまで見くびられてもいなかろう。
現に、

 『あ、えっとぉ。////////////』

それはその通りなんだけど、
そんな恥ずかしいことをあらたまって訊かないでよぉと。
ブッダの側からしてそんな見当違いな方向へ先に感じ入ってしまい、
早速にも赤くなって含羞みつつ、
こちらも視線を泳がせるほど動揺してしまったのへ。
ややホッとしたように、イエスも小さく微笑い返してくれたから。
ブッダからどう思われるかではなく、
もっと奥底に別の恐れを用意していてのこと、
やや萎縮した態度だったヨシュア様。
膝に掛けてたコタツ布団を、しばらくほど見下ろしていたけれど。
そこから何かを えいと見切るように顔を上げ直すと、

 『あのね?
  キミを独り占めしていることへの天罰みたいな何かしら、
  ちいとも降って来ないのへ、実はいつもドキドキしてるんだよ?』

 『はい?』

お隣だか真下だか、
バラエティでも観ているものか、
壁越しにわっと笑い声が立ったのに紛れてしまいかかったほど、
最後のほうは随分と小声なそれへと萎れてしまったイエスの声。
はい?と訊き返されて、ひくりと肩が揺らいだけれど、

 『もしかして、まずはとキミを さいなんではいない?
  私に気づかせぬよにと、隠してはいない…?』

そうと重ねて訊いたお声は、
それこそ大風の中のロウソクの灯火みたいな頼りなさ。
でもでも、訊いてることはといえば、
ブッダの身をただただ案じてという 温かで優しいそれであり。

 『…いや、ウチはそういう天罰ってないんだけれど。』

あったとしても、それってどういう罰なのさと、
そこはさすがに言い返したかったから。
やや落ち着きなく揺らしていた眼差しだったの
何とか真っ直ぐ冴えさせると、
問いただすつもりで真っ向から見つめ返したブッダだったのに、

 『だって私、ずっとキミに心奪われていたんだもの。』

それはこちらから勝手に捧げたものだから大丈夫だろうけどと。
そんな言いようを添えつつ、
負けないほどに真摯なお顔になって見つめ返されて。

 『う…。/////////』

あっと言う間に圧倒されかかっていては世話はなく。
そんなしてたじろいだのが、イエスをどう煽ったものか、

 『不敬なことをしかかれば自然と罰が当たるなんてこと、
  ただ単に光の眷属だっていう私よりずんと尊いキミにこそ
  起きててもおかしくない懲罰でしょう?』

 ねえ、ホントに怖い想いとかしてはない?
 ナイショにしてるとか無しだからね?と

じりりと身を寄せるようにして来て、
ますますと真剣真面目に凛々しく構えた表情になり、
玻璃色の双眸で縫いとめるように じいと見つめられてしまい、

 『〜〜〜〜。/////////』

随分と斜めに案じられている事態だと気づいていながらも、

 “それってどんなご褒美なの?って 受け止めちゃったもんなぁ。”

だって、大好きなイエスから
ちょっぴり眉を下げたそれながら、
透くような真摯さ込めた眼差しを向けられたんだもの、と。
こっちもとんだ反応に胸が躍ってしまい、
舞い上がるほど狼狽えてしまったのが思い出されたブッダ様。
日を置いた今ならば、
さすがに あの反応ってどうなのと、
自戒も反省も出来るわけで。

 “なんかもう、すっかりとダメダメなんだなぁ。///////”

柿もそろそろ終わりごろ。
入れ替わるよに皮の剥きやすいのが出回り出したみかんを
菓子鉢から1つ手に取ったイエスの、
頼もしいまでに大きな手へうっとり見惚れつつ。
そんな苦笑を胸の内にて転がしておれば、

 「どうしたの? ブッダ。」

ちょいと甘酸っぱい回想に耽ってた、
唯一、恋情だけは悟ってなかった如来様。
響きのいいお声を掛けられて、
わあと我に返ったそのまま、

 「え? あ、あああ、いやあの何でも…。////////」

ないよと続けかけ、
だがだが、ちょっぴり冷たいみかんを
手づから おでこへちょんと当てられてしまい。
ピントのぼやけた橙色の陰の向こう、
そりゃあいい男ぶりをした想い人さんが
屈託なく微笑って見せたものだから、

 「〜〜〜〜っ。//////////」

言葉にならない想いに口許をうにむにとたわめつつ。
何でもないなんて本当に?と
あらためて訊かれてもしょうがないほど
真っ赤になってしまったブッダ様。
そのまま頭にきつくまとまっていた螺髪がふわんとたわんで緩み、
濃色の豊かな髪が
綺麗なつやをまとわせた、奔流のようにあふれるに至って、

 「わっわっ、ホントにどうしたのっ、」

何か大切な真理とか沈思黙考中だったの邪魔しちゃった?と
肩を跳ね上げ、あわわと慌てたイエスだったというに、

 『大好きだよ?』

  強くてやさしくて、
  何でも知っているのに案外と知らないことも多くて。
  そんなキミなのが全部かわいくって大好きだと

そんな言いようでますますと舞い上がらせてくれた、
あのハロウィンの晩の、頼もしいヨシュア様を思い出してたらしい、
確かに可愛らしい、釈迦牟尼様だったようでございます。






   〜Fine〜    14.12.18.


  *いやまったく、さすがは師走で、
   忙しいわ寒いわ、んきぃと切れそうになってるこのところ。
   何とか補足は書けたけど、
   ホントを言えば、もっと甘い展開へ転がしたかったのになぁ。

   甘いお話が読みたいなとの 言わば自己救済ぽく、
   妄想を次々と形にし、立て続けに更新していたはずなのに、
   まさかそれへストップがかかる事態になろうとは…。
   はっ、もしかしてこれってホンモノの天罰?
   いやまあ、
   補完妄想は果てしなく続いているんですがね。(おいおい・笑)
   12月ももう半ばまで来ちゃいましたね、とっほっほ。
   せめてクリスマスの話は書きたいなぁと、
   際限無く広がる妄想を何とかコンパクトにならないか、
   企んでおります次第です

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